【レビュー】映画「正欲」- 多様性の本当の意味は何なのか

朝井リョウのベストセラー小説『正欲』を映画化した作品。特殊性癖の人たちを中心に描かれた話で人と違うことや属性、人間関係などが複雑に絡んできます。「多様性」と謳われているものの、自分たちは輪の外にいるのではないか?普通であることが正しいような社会で生きていかなければいけない生きづらさ、怒り、ジレンマが描かれている。

主人公は新垣結衣演じる桐生夏月。所謂「水フェチ」というもので、これは「アクアフィリア」というもので水や水中の状況に対して性的な魅力や嗜好を感じることを指し水辺の環境、水中での活動、あるいは水を使ったプレイに対する特別な魅力を示すことがあるというもの。夏月もYouTubeで水が流れる動画をベッドで見ているシーンが割と冒頭にあった。そのアクアフィリアを隠し寝具の販売員として社会に擬態しながら生きていく。おそらく同じ趣向の同級生の佐々木くんとの再会で人生が動き出す。

衝撃だったのはこの新垣結衣が演じる桐生夏月、「あれ?この人は本当にガッキー?」と思うほどの新境地。心の闇、怒りのようなものが表情に出ていて「新垣結衣マジか」と思った。公式に書いてあった「今までに見たことのない表情を魅せる」とはまさにこのことだった。

他にも稲垣吾郎が演じる寺井啓喜は所謂、堅い親父で妙な安心感があった。不登校の息子が同い年のYouTuberに影響され、自分もYouTubeを始めて進み始めるという話だ。教育方針の違いから家庭が揺れる。家族で食卓を挟んで会話をするシーンは映画「半世界」の主人公高村を彷彿とさせる。大学生の神部八重子(東野絢香)は男性恐怖症で男性が性的な目で女性を見ることが受け入れ難く、今にも壊れてしまいそうな危うい雰囲気が出ていて生々しい。彼女もまた葛藤しながら人を好きになる。

それぞれが社会という大きな枠の中で生き、徐々に繋がってゆく。こうした性的趣向が社会的にどういった風に捉えられているのか考えさせられる、個性的でそれぞれが抱えている問題が滲み出る描写で見応えのある映画だった。


スズキロク
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