映画「怪物」はできるだけ前情報なしで一度見ることをオススメします。監督是枝裕和、脚本坂元裕二、主演は安藤サクラ、永山瑛太で音楽は坂本龍一。既存の楽曲もありますが坂本龍一の遺作ともなった。
同じ時系列を関わるそれぞれの人の視点で進んでいく、何の情報なく見たら何かモンスター的なものが出てくるんじゃないかと思うくらい不気味でホラー映画のような映像になっている。人物の背景など描かれていない部分があったので、観終わった後に小説版も購入し情報を補完した。個人的には映像には見えていない背景の音や声がとても面白いと感じた。「こちらの視点」で鳴ってた音が「あちらの視点」でも聞こえたりと続けて何度も観てしまった。しかも「こちら」と「あちら」の同じ音でも互いの心理描写が異なるため聞こえ方が全く違う。これは本当に不気味な演出で良かった。
★ここからネタバレ注意—————————————————————————————-
保利先生(瑛太)の描写で気になるところがあったので考えてみた。序盤、母の麦野沙織視点では、息子(湊)への教師のいじめを疑い学校へ向かう。校長室で保利先生や校長などからとても形式的な対応を受け激怒する。「保利」の態度に対する視聴者の受け止め方は沙織同様にかなり腹ただしいものだった。
なるほど「怪物」とは湊の心の闇=学校への不満のような図式かと。しかし保利視点では保利への印象がめちゃくちゃいい先生へとガラッと変わる。聖人保利ターンが続いてもらいたいと思う一方、めっちゃいい人の展開からの怪物=保利か?と勘繰ってしまう箇所。すごいと思ったのは「こちら」と「あちら」の話で「同じ音でも互いの心理描写が異なるため聞こえ方が全く違う」という部分。これが保利の演技でも見ることができる。
例えば沙織が校長室へクレームを言いに行った場面、説明会のシーンでは沙織視点と保利視点では同じタイムラインなのに保利の演技が違う。
沙織視点、これは母の怒りの感情を表していてうちの息子にこんなこと言うやつはとんでもない奴の「とんでもない奴」が目の前に現れたシーンだ。下を向き、ボソボソと形式的な受け答えと突然飴を舐める保利。一方保利視点では自分は間違っていない、正義感で真っ直ぐ前を向きでも従わなければならないもどかしい態度。この時点で沙織の怪物は学校や教師、保利の怪物はいじめをやってるかもしれない子の親(沙織)や組織、
それぞれの正義や感情一つで見える景色も違うといった心理描写が面白かった。
ラストの原っぱを走り回ってエンディングへ行くシーンは、あまり説明もなく考えさせられるタイプの作品なのでわからないが、壊れた古い電車と使われなくなった線路、柵の向こうはおそらく行き止まり向こうに見える新しい線路と電車、あれは生まれ変わった姿で二人は亡くなってしまったんだろうと思った。
スズキロク
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