“12月31日”
今年もいつものようにメールをした。
「えっちゃん誕生日おめでとう」
この日は1年の中でいくつかある、大切な日の1つだ。
「いつもありがとう、りょうたくんにとっても素敵な1年になりますように」
このやりとりが一体いつまで続くのか、それはわからない。
もし僕が死んでしまっても、この日が特別な日であるということだけは変わらないだろう。
20年前僕は初めて恋をした。
中学3年の夏のことだった。
その子の誕生日が12月31日、
年に1度だけその子にお祝いのメールをすると決めた日だ。
バスケ部は最後の夏の大会で敗北すると“引退”言われ、
その後は各自進学へと向かっていった。
幸か不幸か僕は受験などに巻き込まれることもなく、
ほぼバスケットボールをするための進学を選び、
進路的には早々にゴールをした。
そんな夏から卒業までの数ヶ月、
今思い起こせば“初恋”と呼べるものはその人以外見つからない。
中学3年、クラスで隣の席になったのは、
幼稚園の時から知っている「えっちゃん」だった。
いや、知っているのは僕だけで、えっちゃんはきっと忘れてる。
だからこそ、ここは知らない間柄の二人でいるべきと、
そんな接し方をしていた。
えっちゃんはそれまで見た女性の中で一番キレイだった。
男子はいつもえっちゃんの視線を気にしてカッコつけたりした。
ある日の放課後、
黙々と掃除当番の仕事をしているとえっちゃんが
「幼稚園の時バレンタインあげたの覚えてる?」
突然の出来事に「うん!覚えてる!」と即答してしまった。
二人だけしか知らないことを共有してるみたいで嬉しかった。
その日から特に約束もせず一緒に帰るようになった。
僕がえっちゃんを家の前まで送る15分くらいの帰り道。
何を話したかはほとんど覚えてないけど、
夜には明日は何を話そうか考えてから眠った。
数ヶ月後えっちゃんの高校が決まる。
えっちゃんは私立の共学へ行く。
だから誰かと恋をしたり、きっとあるんだろうなって、やりきれない気持ちになった。
僕らはずっと平行線をたどったまま、卒業式の前の日を迎える。
いつものように家まで送り届けると「明日で卒業だから今日で最後だね」えっちゃんが言った。
僕はなぜか「うん、ありがとう」って言った。それがあの時の精一杯の言葉だった気がする。
振り返るとえっちゃんはいなかった。
それから僕らが再び出会うことはなかった。
えっちゃんだけが切り取られた風景を未だに強烈に覚えている。
あの日から5年、10年、20年経った、2015年12月31日。
街はとても静かでどこか物悲しい。
誰からも連絡がこないのはこの日くらいだと思う。
僕は今年もえっちゃんにメールをした。
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